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美味しいビールを作るための技術が、高分子合成や再結晶精製にも活かせる⁉︎かもです。
ビール酵母を溜めておくタンクがあり、均一な懸濁液とした後に麦汁と混合するタンクへと送液されます。 Advertisements
そこで、懸濁液(スラリー)が均一な状態であることがビール品質の安定に繋がります。
ここで課題が存在します。
均一なスラリーにしようとして強く撹拌すると、酵母が破砕してしまい、出来上がりのビールの香味を損なってしまいます。
一方、弱い撹拌ではスラリーが均一にならず、また冷却も不均一になり、品質が安定しません。
つまり、弱い力で、且つ、均一に素早く混合するという無理難題を解決しなければなりません。
どんな分野にも厄介な課題があるものですね…
この難題を解決する糸口として、まず著者らは正確な物性データを集めることにしました。
しかし今回のビール酵母懸濁液のような不均一系や高分子を溶かした高粘性溶液の場合、非ニュートン流体と呼ばれ、通常のレオメータでは正確な粘度が測定出来ていませんでした。
そこで、非ニュートン流体でも測定出来るようにレオメータを改良しました。この改良レオメータで粘性のデータを取得することで、その後の撹拌羽根の改造やシミュレーションに役立つことになりました。
さらっと書いてますが、目標達成のために分析機器の改良から手をつけるとは、なかなか出来ないことですよね。頭が下がります。
続いて、タンクや撹拌羽根の形状の検討です。
市販の大型パドル翼(図から察するに、神鋼環境のフルゾーン)を改造することで、低速でも速やかに混合できることが分かりました。
羽根の先端を少し曲げているようですね、この辺のさじ加減は素人では分かりません。
面積の広い撹拌羽根を使うことは、高分子合成などの粘性が高い時には一般的な手法ではありますが、さらに1ランク高いところを目指していますね。
羽根先端付近の流体に大きな力が加わることも防ぐことができ、タンク内のどの場所でも酵母を壊すことなく撹拌出来ているようです。
その後、数値流体力学(CFD)シミュレーションにて理論的な実証を行い、最後は実際の酵母タンクに適用して、ちゃんと「美味しいビール」が作れることを実証しています。
詳細は割愛しますので、原著をご参照ください。
少ない撹拌動力で混合できるので省エネルギーですし、懸濁物の破砕を防ぐ技法は低分子医薬品の再結晶
においても、結晶の破砕を防ぐために有用かもしれません。
こういった成功事例を上手く取り入れていきたいですね。
企業の現場で行なっている課題解決を、オープンアクセスで読めるのは良いですね。
また機会があれば、他にも紹介していこうと思います。
それでは、酵母の流動状態に思いを馳せながら、今日も美味しくビールをいただきましょう。
ビールの製造プロセスにおいて、撹拌は重要な工程として挙げられます。麦芽やホップなどの原材料を混ぜ合わせる際に、均一な配合を実現するために撹拌が欠かせません。また、醸造中の発酵過程においても、適切な撹拌が行われることで酵母の分散が促進され、ビールの味や香りの特性を向上させることができます。
そして、美味しいビールを生み出すだけでなく、撹拌技術は他の分野にも応用が可能です。例えば、高分子合成においては、反応物質を均一に混ぜることで望む高分子化合物の特性を制御することが重要です。撹拌技術を駆使することで、希望する高分子の合成効率や品質を向上させることができるでしょう。
美味しいビールを楽しむだけでなく、その製造に使われる技術が他の分野にも貢献できる可能性があることは、面白いですね!