1.肝性脳症の発現機序
大きく分けて以下の説が考えられている
アンモニアを主体とする昏睡惹起物質による説
腸内細菌によって産生され門脈に吸収された脳症惹起因子(アンモニアなど)が、肝臓での代謝をエスケープし、高濃度のまま脳に到達して中枢神経機能を障害することによる。
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アンモニア←腸内で産生
↓
大腸粘膜から吸収され
門脈を経由し
肝臓へ運搬される
↓
健常人→肝臓で分解
肝硬変患者
↓
肝臓の解毒能低下
+
門脈圧亢進に伴い形成される門脈ー体循環シャント
のため門脈血流が肝臓をバイパスしてしまう
→アンモニアが肝臓での代謝を回避し体循環系に流入
↓
↓アンモニア→→中枢神経抑制作用
↓
意識障害(脳症)発症
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Fischerらの偽性神経伝達物質説
血中フィッシャー比の低下が、血液脳関門におけるアミノ酸の競合的脳内取り込みに影響し、脳内にもアミノ酸インバランス(BCAA↓↓+芳香族アミノ酸↑↑)をもたらすことによる。続いてアミノ酸から産生される神経伝達物質である脳内モノアミンのバランス異常をきたし、意識障害に繋がる。
アミノ酸インバランス Advertisements
・BCAAの低下
・芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン)
トリプトファンの増加
→芳香族アミノ酸→BCAAの脳内取り込みを競合的に阻害
↓
脳内→アミノ酸インバランスが血中より一層高度となる
↓
芳香族アミノ酸
・神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンの産生を抑制
↓
肝性脳症(意識レベルの低下)発症
◇肝硬変患者でフィッシャー比が低下する理由
肝臓で代謝できなくなったアンモニアを骨格筋が代償性に分解する際、BCAAが代謝基質として消費されてしまうため。
◇偽性神経伝達物質とは?
中枢・末梢神経においてノルアドレナリンのような正常な神経伝達物質を追い出して肝性昏睡をきたすと考えられている物質
トリプトファン(セロトニンの前駆体):カテコラミンを放出させ代わりに偽性神経伝達物質として作用する。
チロシン、フェニルアラニン:ドパミン、ノルアドレナリンの合成低下、偽性神経伝達物質(オクトパミンなど)の産生をきたす
その他の説
・GABA説やGABA/BZ受容体Cl-チャンネル複合体に関する仮設
(内因性BZ様物質によるGABAニューロンの活性化)
・脳内のアンモニア代謝の中心である星状膠細胞(アストロサイト)の膨脹による機能低下説
2. 肝性脳症にテルフィスを使う理由
①脳内モノアミン代謝の改善
アミノ酸インバランス(BCAA↓↓+芳香族アミノ酸↑↑)をBCAAの投与によって是正
動物実験で
・神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンの正常化
・偽性神経伝達物質(オクトパミンなど)の産生抑制
が報告されている。
②アンモニア解毒の促進
BCAA
→骨格筋におけるアンモニア代謝を刺激する作用もある。
肝硬変
→肝臓の尿素サイクル機能が低下→血中アンモニア濃度上昇→肝性脳症
に繋がる
↓
代わりに骨格筋がアンモニア解毒を受け持つようになる。
BCAAはこのアンモニア代謝系に基質として作用する。
◆使用法例
脳症で意識障害が認められるときに500mLを3時間程度かけて点滴し、意識障害の改善が認められないときはさらに500mLを追加する。意識障害の改善が認められるまで500mL×2回/日程度で維持輸液とともに点滴を続ける。経口摂取が可能になったらBCAA経口製剤に変更する。
◆有効率
末期昏睡型 23%
慢性再発型 86%
シャント型に対しては極めて速効性の効果を示す。
対して、肝細胞障害型では肝の重症度が増すほど改善効果は低率であり一過性に終わることも少なくない。
肝硬変患者の栄養改善やアミノ酸補充目的で漫然と使用しない。