バスの漫才

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:はいどーも。

:今日もよろしくお願いします。

:実は,最近ムカついたことがありましてね,ちょっと聞いてもらっていいですか。

:どうせ大した話じゃないでしょうけど,とりあえず聞きましょうか。

:この前,バスに乗っていた時の話なんですけどね。その日はバスが遅れててイライラしていたんです。それで,ようやくバスが来たなぁと思ったら,突然,買い物袋を持ったおばちゃんに列に割り込みされたんです。どうも,元々列に並んでいたおばちゃんの連れだったみたいで,遅れてやってきたみたいなんですけどね。しかもそのおばちゃん,乗車する時にPASMOを用意してないから,もたもたする訳ですよ。こっちは早く乗りたいっていうのに!それでまあ,ようやくバスに乗れたのは良かったんですが,あいにくと満席だったんで,仕方なく通路に立っていたんです。そしたら,突然バスが急ブレーキかけて止まるから,その目の間に立っていたおばちゃんに思いっきり足を踏まれたんですよ。なんか,野良猫が急に飛び出して来たとかで。めちゃくちゃムカつきましたよ。

:・・・・・・。

:・・・・・・。

:・・・えっ?それで終わりですか。

:ええ。終わりです。どうしました?

:「どうしました?」じゃないでしょ。話が長い割に,なんのオチもないじゃないですか。

:そりゃそうですよ。だって最近ムカついた話ですから。

:いやいやいや。ないわー,それはないって!そんなの,今時の女子高生でももっと面白い話に出来ますよ。それじゃあ単なる,あなたの愚痴を聞かされただけじゃないですか。

:いやいやいや。そんなこと言ったって,日常で起きる出来事なんて,そんな面白いことなんてある訳ないじゃないですか。マンガやドラマじゃないんだし。

:それはそうですけど,何ていうかこう,表現方法を変えたら面白くなると思うんですね。言い回しとか,シチュエーションとか。

:そんなに言うなら,見本を見せてくださいよ。

:分かりました。良いですよ。とりあえずやってみましょうか!

:はいどーも。

:今日もよろしくお願いします。

:実は,最近ムカついたことがありましてね,ちょっと聞いてもらっていいですか。

:とりあえず,聞きましょうか。

:この前バスに乗っていた時の話なんですけどね。

:ほうほう。

:その日はバスのダイヤが乱れていて,いつもよりも到着時刻が遅れていたんですね。

:バスの場合,天気の悪い日や交通事故があったりすると遅れることがありますからね。

:そうなんですよ。その日はものすごい強風で,漕いでも漕いでも全然前に進まなくて・・・。

:そうそう。何故か不思議と行きも帰りも向かい風で・・・って,それ,自転車通学で遅れた時の理由!今,わざとボケた!?ねぇ,故意にボケたでしょ!

:急いでいたら,曲がり角で遅刻しそうになったアルト・ラパンとぶつかっちゃって・・・。

:そうそう。ぶつかった相手が,まだ免許取り立ての若い女の子で,「いっけな~い,遅刻遅刻!」・・・・って,まさかの食パンをくわえた美少女登場!?過失だとしても,恋には発展しませんよ!

:偶然,新しい顔を運ぶ途中のアンパンマン号とぶつかっちゃって・・・

:これが本当のトラフィック・ジャム(交通渋滞)・・・って,なんでやねん!

:当然,お客さんもみんなイライラしながら待っている訳ですよ。「ほんま,どないなっとんねん!」ってね。

:何で急に関西弁なのかは分かりませんが,気持ちはよーく分かりますよ。今まさに,私自身がヒシヒシと感じているところですからね。

:それでね,ようやくバスが見えた頃には,「やっと来たか!」って感じだったんですね。ところがその時,向こうから大きな買い物袋を持ったおばちゃんが現れたんです。

:おやおや。急に雲行きが怪しくなりましたね。それでそれで。

:列の前の方に並んでいたおばちゃん2人がパッと手を挙げて,「立花さん,こっちよこっち!」「早く!早く!もうバス来てるわよ!」って,買い物袋を持ったおばちゃんを手招きするんですよ。

:話の流れからすると,そのまま列に割り込まれそうな雰囲気ですね。これはちょっと,ムッとする展開と言えますね。

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:でしょ?案の定,手を挙げたおばちゃん2人の連れだったみたいで,すごい勢いでこちらに向かって走って来たんです。「待って~,水島さん!戸山さん!」ってね。でもね,あんまり急いでいたもんだから,うっかり目の前で転んじゃって。

:それは大変だ!立花さん,怪我してなければいいんですけども。

:幸い,怪我はなさそうだったんですが,運悪く手に持っていた買い物袋が地面に落ちてしまって,袋の中から,おむすびころりんすっとんとん。

:立花さんも一緒にすっとんとん!そうそう。ねずみだけに注意一秒,怪我一生・・・って,昔話をしている訳じゃないからね!

:買い物袋からオレンジがコロコロコロ・・・。咄嗟にオレンジを拾おうとして伸ばした手と手が重なる。「あっ,ごめんなさい」「いえ,こちらこそ」見つめあう二人。しばしの沈黙。そしておもむろに,男が女にこう告げる。「オレンジ(俺んち)に来ないか?」(♪パッパッパッパッパパパパパ,アフッ~♪)

:そこ,“俺んち”じゃなくて“おれんとこ”だから!甘酸っぱい恋もワンナイト・カーニバルも始まんないから!!

:買い物袋から,あんぱんがコロコロコロ・・・。「何してるんだ,バタコ!早く来るんだ!」「ジャム。彼をこのまま放ってはおけないわ」「分かってるのか!こうしている間に,みんながどれだけ苦しめられているのか!」「分かってるわ。でも・・・」「バタコ,もういい。俺を置いて先へ行くんだ!」「大丈夫,まだ3秒経ってないわ!今ならまだ,間に合う」「いいんだ。本当のこと言うと,もう・・・顔が汚れて・・・力が出ないんだ・・・ガクッ」「アンパンマーン!!!」「次回,それいけ!アンパンマン。最終話。さらば,愛しきアンパンよ!」(♪いつか~ めぐりあ~える~ やさしいなにかも~とめ~♪)

:ルパン三世(PART2)の最終回のタイトル!!宮崎駿の脚本のヤツ!

:「いえ、あの方はなにもとらなかったわ。私のために戦ってくださったんです」「いえ、奴はとんでもないものを盗んでいきました。・・・・・・あなたのミツカンです」

:おーい,オレンジじゃなくてミツカン酢が盗まれてんぞ!!

:ととのいました!「偽ルパン」とかけまして「味の染みてない大根」とときます。そのこころは,どちらもさっぱり「似てない(煮てない)」でしょう!ねずみっちです。

:もう,お腹いっぱいです。次行こう,次。

:結局その後,おばちゃん3人は,さも当然な流れでバスへと乗り込んだんですね。「お待たせ~,水島さん。戸山さん。」「もう,立花さんったら,遅いわよ」「本当よ,私,心配しちゃったわ!」みたいな感じで。

:ずっと並んで待っていたのに,割り込まれたんじゃ,正直あまり良い気はしませんね。言ってやれば良かったじゃないですか。「おい,おばはん!みんな待っとんじゃ!割り込みすなや!」ってね。

:勘違いしないでよねっ!べ,別にあんたの隣を狙ってた訳じゃないんだからっ!

:何,この展開!?何度も言いますが,相手,おばちゃんですからね。

:それでね,最近はバスの運賃も現金じゃなくて電子マネーで支払うじゃないですか。だから,乗車の時に電子マネーをタッチするんですけど,ここでまた,立花さんが手間取る訳ですよ。

:まあ,些細な事ですが,意外とイラっとする場面ですね。レジでいざお会計ってなった時になって慌てて,ポイントカードや割引券を探し始める主婦みたいな感じで。

:そうそう。まさにそれと同じ状況でね,「あらっ,あたしPASMOを何処にしまったかしら?」とか言い出すんですよ。さっきの割り込みのこともありますので,これはもう,はっきり言うしかない!そう思ったんですね。

:そうですよ,ちゃんと言葉にしないと伝わりませんからね。男らしく面と向かってガツンと言ってやれば良いんですよ。

:「すいません」「はい・・・」「あの,これ落としましたよ」そう言って,足元に落ちていたオレンジを拾いあげる。「あっ・・・すみません」「ちょっと立花さん,何してんのよ」「そうよ。はやく行くわよ」「あっ,今行くから。じゃあこれで・・・。ありがとうございました」「なーに,あの人」「知り合い?」「ううん。そんなんじゃないけど・・・」

:ちっがーう!いや,人としては正しいんだけど,なんかちがーう。ハンカチ落した女子学生かよっ!そもそも,オレンジ落とすの,これで何回目だよ!マジで。立花さんちの「みかん」ばっかり回収していないで,「ゆず」でも回収しろよ!

:何のことを言っているのかさっぱり分かりませんが,私が数えた限りでは,オレンジを落としたのは,本日2回目じゃないかと思うんですけど。

:そういう事じゃなくてね。なに,今回はそういう展開!?そういうノリで行くの?ふーん。分かった。よーく,分かったよ。

:展開とかノリとかはよく分かんないですけど,ともかくバスには乗れた訳です。

:なんか,話を聞いてるこっちの方がムカついてきたわ。それで,どうなるのよ。

:当然,車内は混雑しているし,席も空いていない。だから仕方なく通路に立っているしかなかったんですね。

:はいはい。それは困った。いや~本当,困ったね。そんな時に,例の事件が起きるわけだ。はい,どうぞ!

:そこで突然の急ブレーキ!!(キキーッ!)すかさず壁ドンッ!「キャッ」「だ,大丈夫か?」「えぇ」二人の距離が急接近!!くぅーっ,胸キュン展開キタコレ!「あの~,監督!やっぱりバス車内で壁ドンは無理があるんじゃないっすかね?」「う~ん,そうだな。じゃあ,代わりにナレーション入れとくか。“二人の心は車内にぶら下がるつり革のように揺れ動くのだった”って」「おっ,イイっすね。さすが監督!よっ,天才!」「バカヤロー,そんなにホメるなよ。照れるじゃねぇか」

:あのー,盛り上がっているところ申し訳ないんですけど,ちょっといいですか。

:何だよ,今良い所だったのに。

:あのですね。絶対,ぜーったい流行んない!こんなのマンガでもドラマでもダメ!!

:「え~,乗車中の皆様に,運転手よりご連絡します。先ほどの急ブレーキの原因は,道に飛び出した黒猫を追いかけて,デッキブラシを持った赤いリボンの少女が道を横切ったのが原因でした。大変,ご迷惑をおかけしました。それでは,出発進行!」

:なーるほど,それで「キキ―ッ!」か・・・ってならないから!足はどうしたんだよ。足は!全然踏まれてないじゃんかっ!

:足はもちろん,しっかりとブレーキを踏みましたとさ。

:いいかげんにしろ!

:どうも,ありがとうございました。