軟弱な粘性土地盤上の盛土での技術課題

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まず軟弱な粘性土地盤上の盛土での事前設計における技術課題をとりまとめる。次いで、技術課題の補完としての現場計測計画立案の概要、最後に各種基準に示されている現場計測計画を参考のために示す。

軟弱地盤上の盛土における主たる問題は次のとおりである。

(1) すべり破壊

(2) 沈下・変形

(3) 地盤補強を目的とした場合の地盤強度

(4) 施工時の周辺環境への影響

(5) その他 

事前設計段階での、これらに関する現状での技術課題は次のとおりである。

(1)すべり破壊

盛土のすべり破壊は通常、安全率法によって評価される。目標となる安全率は1.1~1.3である。盛土は緩速施工あるいは段階施工とすることを、前提として事前設計されることが最近一般化している。事前設計で安全率が不足する場合、押さえ盛土や地盤改良工法等の軟弱地盤対策の併用が計画される。次のような技術課題がある。

ⅰ)計算モデルと慣用計算法

盛土のすべり破壊の検討は,円弧すべり計算で行われるのが一般的である。ただし地盤、盛土形状等の条件によっては、破壊形状が円弧で近似できないものがあり、慣用計算では実際の状態を把握できない場合がある。また、盛土の施工を緩速あるいは段階施工として、圧密による地盤強度の増加に期待する場合の圧密計算は、地盤を一様弾性体とみなして算出される鉛直増加応力を圧密荷重として、一次元圧密計算を行うのが慣用法である。しかし、盛土の安定に大きく影響するのり面下では、地盤は二次元の応力条件にあるはずである。慣用計算法ではこのような条件を適切に表現できない場合がある。さらにのり面下の地盤では、盛土の施工方法によって圧密変形以上にせん断変形が生じ、事前設計で仮定した強度増加を満足できない事態も想定される。

ⅱ)地盤性状のばらつき

盛土が行われる軟弱地盤は、陸成の粘性土地盤であることが多い。海成と比較して陸成地盤の性状は、大きなばらつきを持っていることが、その堆積過程から容易に想定される。したがって限られた事前土質調査から算定された事前設計での安全率は、該当盛土での平均値あるいは代表値とみなすべきであって、実際にはより安全な部分も、より危険な部分もあるわけである。

(2)沈下

沈下と変形は本来一体で考えるべきだが、ここでは問題を明瞭にするために、それらを分けて考えるものとする。

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沈下の事前設計では、室内で行われるー次元圧密試験から得られる定数を使って、圧密沈下量と圧密の経時変化を算定するのが一般的である。沈下算定結果から、工程条件の範囲で残留沈下が所定の条件を満足しない場合、工程をのばすサーチャージ、あるいはバーチカルドレーンによって沈下時間を短縮する等の、沈下対策が計画される。次のような技術課題がある。

ⅰ)計算モデルと慣用計算法

(1)で述べたように、圧密計算は一次元圧密条件で行われるのが通常である。造成盛土のように、軟弱土層の深さに比べて十分な広さをもった盛土の場合は、一次元計算は正当と考えられるが、道路盛土あるいは造成盛土でも、のり面付近のように、二次元条件とすべきものも多い。ただし、二次元圧密計算の精度には、課題が残っているのが現状である。またこのほか、例えば、陸成地盤に多く見られるサンドシームが介在した地盤、泥炭地盤、バーチカルドレーン打設地盤等々については、慣用計算法だけでは十分な精度をもった事前設計は困難な場合も多く、いまだに課題が残されている。

ⅱ)地盤性状のばらつき

(1)の場合と同様である。

(3)変形

ここでは盛土周辺地盤に生ずる変形について考えるものとする。周辺地盤での変形が問題となるのは、地表面の変位自体が支障となる場合(例えば田面)と、地盤の変位が周辺構造物に影響を与える場合とが考えられる。このような場合、事前設計では次のような地盤変形予測が試みられるのが通常である。

(a)有限要素法による

(b)供下り等の沈下を予測するのであれば、盛土周辺での鉛直増加応力を算定し、一次元圧密計算を行う

(c)既往の変形実績データから作成されている関連図に該当盛土条件をあてはめ推定する

要求される予測精度によって異同はあるが、これらには次のような課題がある。

(a)有限要素法については、多くの議論があるものの、実務レベルで容易に取り扱えるところまではきていない(計算は容易にできるが、その結果を容易に評価できない)のが現状である。

(b)については、盛土外の地盤が一次元圧密条件に適合するとは考えられない。

(c)の実績関連図は、該当盛土にとってはあくまでも間接情報であり、推定の信頼性には自ずと限界がある。

すなわちいずれの方法によっても、現状ではある幅をもった値、あるいは参考程度でしか事前に推定できない、とするのが妥当と思われる。

(4)その他

地盤の事前補強を目的とした場合の強度増加は、(1)で述べた圧密計算での課題と同じである。さらに付け加えるなら、ひずみに関する圧密度と有効応力・強度増加に関する圧密度は、現場によっては大きく異なる場合があるが、事前設計では便宜的に同じ値として取り扱われること、また載荷盛土撤去に際して生ずる粘性土の膨潤に伴う強度変化の評価などに課題が残されている。

軟弱地盤での盛土には、軟弱地盤改良工法が併用される場合が多い。多くの軟弱地盤改良工法は地盤中に改良材を投入するものであり、投入される改良材の量によっては、周辺地盤に変位が生ずる。また工法によっては、振動や騒音を伴うものがあり、地盤変位を含めたこれらが、現場周辺環境に影響を及ぼす場合がある。これらについては、多くの実測データが得られているが、地盤条件や軟弱地盤改良工法の種類・施工仕様、さらには周辺条件によって変動があり、事前設計時点で十分な精度をもった推定が困難な場合が多い。