六価クロムが溶出、なぜ?

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(1) 六価クロムとは クロム(Cr)は自然界に微量存在する元素で、主に三価と六価が存在します。三価クロムは、研磨剤や高級緑色顔料、うわぐすり(ガラス、ほうろう、陶器など)に使用され、六価クロムはクロムメッキ、顔料、硫酸アンモニウム、メタノール、アセトンなどの合成の触媒として使われます。六価クロムはより強い毒性があり、摂取障害としては「肝臓・腎臓の障害、内出血、呼吸障害」などが知られています。そのため、環境省土壌環境基準(土壌汚染対策法)では、「検液1Lにつき0.05mg以下であること」と定められています。

(2) セメントに六価クロムが含まれる理由 セメント原料にはもともと自然由来の三価クロムが含まれています。セメントの焼成過程で一部の三価クロムが酸化され、通常自然界に存在しない六価クロムとしてセメントに含まれるのです。ただし、コンクリートやモルタルの固化過程では、水和反応によって生成された水和物に六価クロムが閉じ込められて固定されるため、固化後には六価クロムはほとんど溶出しません。

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(3) 固化後に六価クロムが溶出しなくなるメカニズム 固化後に六価クロムが溶出しなくなるメカニズムは、以下の2点が挙げられます。 ① 水和生成物による置換固溶と表面吸着 ② 水和物組織の密化による封じ込め ①は、セメントの初期の水和反応時点での六価クロムを封じ込めるメカニズムです。初期の水和反応では、セメント鉱物が溶解し、セメント中の六価クロムはこの水和反応の溶解過程で液相中に溶出します。しかし、同時に水和物が生成されることで固定されるため、液相中の六価クロムは、水和物の生成が十分であれば減少します。エトリンガイトなどの水和物生成による固定や珪酸カルシウム水和物への表面吸着により、六価クロムの溶出が低減されます(ジオセットなどの六価クロム溶出量低減型のセメント系固化材)。 一方、②は材齢とともに六価クロムの溶出量が減少するメカニズムです。セメント系材料の水和反応は概ね材齢7日までに急激に進行し、その後は比較的緩やかに推移します。水和反応が進行することによる六価クロム溶出量が材齢7日以降では減少し、水和物組成の密化による固定が進むため、セメントからの六価クロムの溶出量が減少していきます(材齢、経年変化)。

(4) 地盤改良で六価クロムが溶出する理由 地盤改良でセメントを使用する場合、土を構成する土粒子である粘土鉱物や有機物の種類によっては、水和物の生成が阻害され、六価クロムが固定されずに溶出することがあります。たとえば、関東ローム層などに含まれる火山灰質粘性土層がセメントの水和に必要なCaイオンを吸着し、六価クロムを固定する水和物の生成が妨げられる例があります。 セメント改良時に六価クロムが溶出しやすい土としては、粘土鉱物を含むもの、腐植土、火山灰質土が挙げられます。腐植土ではフミン酸を代表とする有機酸が含まれ、火山灰質土ではアロフェンと呼ばれる水和アルミニウムケイ酸塩でできた粘土準鉱物が含まれることにより、弱酸性を呈するため、セメント水和反応が妨げられ、固化及び六価クロムの固定化が阻害される可能性があります。それ以外にも、地盤の酸化作用により、セメント中の三価クロムが酸化されて六価クロムが生成される可能性があることから、地質調査時に酸化・還元雰囲気が異なる土が出現した場合には注意が必要です。

(5) セメント系固化材の六価クロム溶出低減メカニズム ・高炉セメント: 高炉スラグに含まれる硫黄の還元性によるものとされ、セメント中の六価クロムが還元されて三価クロムに変化するためです。 ・六価クロム溶出量低減型セメント系固化材(ジオセットなど): 初期の水和反応により、針状のエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生成し、粘土粒子を架橋して強固な骨格を形成し、土を迅速に固化させ、六価クロムを封じ込めます。

(6) まとめとして(六価クロムが溶出しやすい改良) ・ローム等の溶出リスクの高い土: 改良土が酸性であるため、水和反応が阻害される可能性があります。 ・ローム等の溶出リスクの高い土に対して、貧配合量: 貧配合であるため、よりいっそう水和反応が阻害される可能性があります。 ・低締固め密度での改良: 水和反応による組織の密化が阻害される可能性があります。 ・地下水位が高い状況での改良: 水和反応によって六価クロムが封じ込める前に溶出する可能性があります。 ・その他、水和反応が阻害される要因: 固化材の劣化、強酸性土壌・砕石・水質、酸化力の強い土壌・水質。 ・セメント系固化材を多量に投入: セメント量が多くなると含有する六価クロム量が増えるため、溶出量が増加するリスクが高まります。ただし、酸性土壌の場合はpHによる影響は小さくなること、確実な固化が発現することから、六価クロムの溶出量は減少する可能性もあります。